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福岡高等裁判所 昭和61年(う)699号 判決 1988年1月28日

主文

原判決を破棄する。

被告人両名をそれぞれ懲役三年六月に処する。

被告人両名に対し、原審における未決勾留日数中各二五〇日をそれぞれの刑に算入する。

原審及び当審における控訴費用は被告人両名の連帯負担とする。

理由

本件控訴の趣意は、長崎地方検察庁検察官中倉章良作成の控訴趣意書に記載されたとおりであり、これに対する答弁は、弁護人辻本章(被告人Y関係)作成の答弁書に記載されたとおりであるから、これらを引用し、これに対し次のとおり判断する。

右控訴趣意第一(事実誤認の主張)について。

論旨は、本件公訴事実中、被告人両名に対する強盗致傷の点に関して恐喝及び傷害の事実を認定した原審には事実の誤認があり、これが判決に影響を及ぼすこと明らかであるから、破棄さるべきである、というのである。

所論にかんがみ記録を精査し、当審における事実取り調べの結果を参酌して検討するに、原審取り調べの関係各証拠並びに被告人両名の当審における各供述、当審証人A、同B子、同Cの各供述及び当審現場検証の結果によれば、以下のとおりの事実が認められる。

いわゆる右翼団体を標榜する政治結社甲野会(以下、甲野会という。)の本部長である被告人Xは、昭和六〇年一一月七日午後八時すぎころ、かつて情交関係のあったD子方にたまたま電話をかけた際、同女から「薬の行商をしているAという男と今年の八月ころまで肉体関係があったが、この男が約束を守らず嘘ばかりつくので別れたいと思うけれども、しつこく電話をかけたりしてきてつきまとうのでとても困っている。」旨の話を聞き、更にその日右D子宅を訪れた際にも、Aが「甲野会の誰でも連れて来い。」などと被告人の所属する同会を馬鹿にしたような言動をなしていた旨同女から聞いたことから、Aが甲野会を軽視したとして憤慨し、直ちに右D子宅からA方に電話で同人に対し「わしや、竹敷のXじゃ、あんたは甲野会が恐ろしゅうないと言うたそうじゃな、なめとるのか。」などと申し向けて威圧したうえ、翌八日午後八時ころに長崎県下県郡厳原町《番地省略》所在の右甲野会事務所(以下、事務所という。)に出て来ることを同人に約束させ、同所において、右の件で同人を痛めつけることにした。被告人Xは、更に右D子宅から配下である右甲野会常任理事の被告人Yに電話をかけ、同被告人にAのことについて尋ねたり、前記事情のあらましを打ち明けてAを呼び出しているので出て来るよう申し向け、これに対し、被告人Yは、同XがAに乱暴するのではないかと思いながらも、右申し出に応じ、同郡美津島町のスナック「ルビー」で待ち合わせる約束をした。その後、被告人XはA方に直接行くことを思い立ち、事務所に赴き、同所に居合わせた本件の共犯者である甲野会副行動隊長の少年Zに命じて、Aを脅すための凶器として事務所内から同会会長E所有の精巧な模造刀一振り(刃渡り約四八センチメートル)を持ち出させて、事務所前に駐車中の右会長所有の普通乗用自動車(ニッサングロリア)後部座席にこれを積み込んだうえ、Zを助手席に同乗させ、被告人Xが同車を運転して同Yとの待ち合わせ場所である前記スナック「ルビー」に向かう途中、同Xは、Zに対して「志越のAという男が俺の女を寝取った。今からAの家に行ってみる。Aは俺の女を寝取ったうえ、甲野会がなんぼのもんじゃ、誰でも連れてこいといっている。」などと詳しい事情を告げたため、Zは、被告人Xの立腹した右言動や事務所からわざわざ前記模造刀を持ち出し車内に積み込んだことなどから、同被告人が右刀を使ってAに暴行、脅迫を加えるなどしたうえ、右の件を種に慰謝料名義の金員を奪い取ろうとしているのではないかと察知しながらも、行動を共にすることとし、同日午後一〇時ころ、右スナック「ルビー」に到着し約束どおり同所で被告人Yと落ち合った。被告人Xは、右スナックで同Y及びZとウイスキーの水割りを飲んでいる間に、前記のとおりAが自己の情婦であったD子と関係していたばかりではなく、自己が所属する甲野会を侮辱したことでAに対する憤激の念を一層募らせる一方、当時パチンコ代や飲食代等の遊興費にも窮していたことから、右の件を種にAに因縁をつけて同人から金員を奪取しようと決意するに至り、同店前付近などにおいて、被告人Yに対し、Aが右D子と肉体関係を持ったり、甲野会をなめたようなことを言っているので、これからAを生け捕りに行くつもりである旨打ち明けたうえ、「俺は金がいいっちゃけん、一〇〇位いけるかな。」などと申し向けて、Aから右の件に因縁をつけて一〇〇万円程度の現金を出させるつもりであることを告げた。被告人Yもこれを聞いて、同XがAに暴行、脅迫を加えて現金を出させようとしていることの意図を察し、「一〇〇や二〇〇はいけるちゃない。」などと相づちを打ったものの、直ちに被告人Xの企てている右犯行に加担することには幾分ためらいがあった。しかし、被告人Yは、翌八日午前三時ころ、右スナックを出て、同Xが運転し、Zが助手席に同乗する前記自動車の後部座席に乗り込んだ後、被告人Xが直ちにA宅のある志越方面に車を向けたことや、自己が乗り込んだ後部座席内に前記模造刀が積み込まれているのを認めたこと、並びに右スナック内外での被告人Xの前記言動とも併せ考え、同被告人が右模造刀を用いるなどしてAに相当手ひどい暴行、脅迫を加えて金を奪い取る腹を固めていることを察知するに及び、自己も被告人X及びZの両名と右犯行を共同して実行する覚悟を決め、またZにおいても、被告人Xの意図を十分に察知したうえで、最終的には同Yと同様、右スナックから志越に向かう車中においてこれ加功する決意をした。被告人Xは、前記自動車を運転し同Y及びZとともに同日午前四時ころA方近くの同県上県郡峰町大字志越《番地省略》先路上に到着し、Zに命じて付近の公衆電話からAを呼び出させたが、その際、同人が畏怖して右呼び出しに応じないかもしれないことを慮り、Zに対して穏やかな口調で話すよう注意し、同人もそれに従ってAに丁寧な口調で電話をかけ、被告人らの呼び出しに応じて出てくることを承諾させた。Zからの電話を受けたAは、かねてから被告人Xらが暴力団同様の組織である甲野会の構成員であることを知っていたため、前日同被告人からの電話で事務所に出向くことの約束をさせられた際、義弟に同行方を依頼して承諾を得ていたものの、抜き打ち的な右呼び出し電話で同人に連絡をとることもできず、被告人らの呼び出しに応じ一人で出て行くことは恐ろしかったが、自宅には中学一年生の姪を泊めており、被告人らから自宅に押しかけられでもすれば、同女にも危害が及びかねないと考え、やむなく自宅を出て付近路上で自動車を停めて待ち構えていた被告人らのところに赴いた。Aが右自動車の傍らまで歩み寄ったところ、同車の右後部座席に乗っていた被告人Yから「乗れ。」と命じられ、Aは右命令に逆らえば何をされるかわからないと考えて、命じられるままに同車の左後部座席に乗り込み、次いで助手席にZが乗り込んだ後、直ちに発進し、被告人Xの運転で志多賀方面に向けて進行した。そして、同町大字志越《番地省略》M方南西約五二〇メートルの空地(以下、本件空地という。)まで約一・七キロメートルの距離を走行中の車内で、まず、被告人Yが自己の左脇に同乗させていたAの胸部に一見しただけでは真剣と全く区別のつかない前記模造刀を抜き身にしてその峰部分を押し当てながら、「お前か、兄弟分の女と寝たのは、何回寝たとか。」などと申し向けて同人を散散脅迫した。本件当時Aは、前記のとおり被告人Xらが暴力団同様の組織である甲野会に属しているものであることを認識していたことから、同被告人より呼び出しを受けた当初の時点ですでに相当程度被告人らを畏怖していた矢先に被告人Yの右脅迫で真剣を首筋に突きつけられたと思い込んだため、極度の恐怖に陥れられた。次いで被告人らは、同日午前四時すぎころ、南側が崖(傾斜角は概測六五度・底部までの斜面距離は目測約一〇〇メートル)になっているうえ、付近に人家も人通りもなく、照明設備もない本件空地にAを連れ込み降車させるや、被告人XがいきなりAの顔面を手拳で一回殴打してその場に転倒させたうえ、ZがAの腹部を二回蹴りつけ、被告人YにおいてAの頭髪を掴んで右手に携えた前記模造刀の刃先をその鼻先に突きつけつつ、「今夜は兄弟が殺してくれと言うからお前を殺しにきた。」旨申し向け、更に右模造刀をAの右肩に押しあてつつ、「さあて殺すか。」、「お前をばらばらにしてこの谷底に捨てろうか。」などと言って脅迫したため、同人は恐怖の余りその場の地面に正座して命乞いをし、「金だったらいくらでも出しますので助けてください。」と哀願するに及んだが、これに対し被告人Xは「金はいらん、叩き殺してやる。」、「最後のたばこになるかもしれんから吸え。」などと言ってAを脅し上げ、恐ろしさの余り正座して震えている同人に火をつけたたばこを差し出し、これに追い討ちする形で被告人Yが「兄弟は金は要らんと言いおるが、お前はどげんするとか。」などと言って脅迫したことから、Aは必死になって「どうか金で勘弁して下さい。」と被告人らに対して哀願を重ね、そこで被告人らにおいて「金で解決するというが、いくら用意できるとか。今日中にできる金はいくらか。」などと申し向けて金員を要求し、結局、Aをして現金三〇〇万円を提供する旨約束させたうえ、直ちに右金員を都合させるべく、ひとまず同人を事務所に連行することにした。被告人らがAを本件空地から事務所に連行するため、被告人X運転の前記自動車にAを乗せる際、Zは「甲野会から逃げたらこれ以上のリンチをする。」旨告げ、更に走行中の車内で、被告人Yが鞘入りの前記模造刀でAの口許付近を二回殴打し、次いでZが、これまた一見して真正な拳銃と見間違う模造拳銃を同車助手席のダッシュボード内から取り出したうえ、その銃口をAの顔面間近に突きつけ、「引き金をひいたらお前は死ぬぞ。」などと申し向け脅迫した。事務所にAを連れ込んだ後、同日午前六時ころ、Zが同所にあった本体の長さ約八七センチメートルのもり付き水中銃を持ち出して、そのもり先をAの胸元に向け、「これをはじいたらあんたは死ぬばい。」とか、「あんたが警察にたれ込んだらどうなるかわかっとんね。」などと言って脅したため、Aは思わず傍らに居た被告人Yの手を掴んで助けを求めた。その後、被告人Xは、右一連の暴行、脅迫で極度の畏怖状態に陥り、反抗の気力を失っているAに命じて金額一〇〇万円と一五〇万円の借用証書二通を書かせたうえ、そのほか当日支払わせることにした五〇万円については、直ちにAをして銀行預金を引き出させて金策させたうえこれを奪取することとして、銀行の開店時刻近くまで事務所内に同人を事実上監禁して夜が明けるのを待ち、同日午前七時三〇分ころ、被告人ら全員で再び前記普通乗用車にAを同乗させて同人の自宅付近まで送り届けて預金通帳等を自宅に取りに行かせたが、被告人らは、前記のような強度の暴行、脅迫によりAが極度の畏怖状態に陥っていることを知っていたことから、同人を一人で帰宅させてもそのまま逃げたり、警察に通報することはあるまいと考え、Aの自宅から約一〇〇メートル位離れた志越部落の入口付近で同人が戻って来るのを待ち構えていた。こうして、Aは一旦帰宅したものの、何処からか被告人らに見張られている感じもあったし、車で逃げようとしても自宅が被告人らの待っている所を通らなければ逃げられない行き止まりになっていることや、一一〇番通報も考えたがパトカーが着くまでには五、六分はかかるであろうし、被告人らのもとに戻るのがそれだけ遅くなれば被告人らが自宅に押しかけて来るだろうと考え、恐怖心から逃走することなどできないとあきらめ、指示どおり銀行の預金通帳と印鑑を用意し、自ら自家用車を運転して被告人らのもとに戻って来た。被告人Xは、Aの車にZを移乗させて、Aが車に乗ったまま逃走しないように監視させつつ、被告人Yを同乗させた普通乗用自動車を運転して、Aの車を先導する形で同町大字佐賀四六〇番地一二所在の株式会社十八銀行峰支店付近駐車場まで赴き、Aが同支店から金員を引き出して来るのを待ちうけた。Aは右駐車場から銀行に入るとき、銀行の近くにある駐在所に駆け込み救いを求めようとも考えたが、右駐車場には銀行の前を通らないと行けないし、被告人らは車に乗っているから駐在所に入る前に被告人らがいち早く車で近寄ればそれもできない。とにかく金銭を渡す以外に逃れられないと観念し、銀行内においても、間もなく入って来たZの姿を認めて、前同様引き続き恐怖の余り逃走や救いを求める意思を喪失させられたまま、預金を引き出して右駐車場に戻り、同日午前九時三〇分ころ、同所において、被告人XがAから現金四〇万円を受領し、奪取の目的を遂げたが、右一連の暴行により、同人に対し、加療約五日間を要する顔面打撲兼擦過傷等の傷害を負わせた。

以上に認定した事実に徴すると、被告人両名及びZは、Aに因縁をつけて暴行、脅迫を加えその反抗を完全に抑圧して金員を奪取する意思を相通じたうえ、共同して同人の反抗を抑圧するに足りる暴行、脅迫を加えて金員を要求し、同人が右暴行、脅迫により極度の畏怖状態に陥り被告人らに反抗し得ない状態の継続しているもとで、本件金員を奪取したものであることを肯認でき、しかもその暴行により同人に傷害を負わせた以上、被告人らが強盗致傷の共同正犯たる責任を免れないことは明らかというべきである。

原判決は、被告人両名及びZは、Aを自宅から連れ出して他の場所で暴行、脅迫を加え、畏怖した同人から一〇〇万円ないし二〇〇万円の金員を出させる計画であった事実を認めることができるところ、深夜Aを連れ出し、その場で右のような多額の金員を取得することができるとは考えられないから、被告人らは、Aに暴行、脅迫を加えて同人を畏怖させたうえ、同人を一旦自宅に帰らせるなどして金員の調達をさせ、調達してきた金員を同人から受け取る計画であったものと認めるのが相当であり、右犯行計画からみると、被告人らにおいても、Aの反抗を完全に抑圧して金員を強取する意思まではなく、暴行、脅迫を加えて畏怖させたうえで金員を交付させその約束をさせる意思があったにすぎないというのであって、なるほど被告人らが、暴行、脅迫を加えたその場ではAからその持ち金を奪取しようとはしておらず、同人をその自宅近くまで連行し、一人で帰宅させて預金通帳と印鑑を持って来させ、銀行から預金を引き出させたうえで金員の交付を受けたものであることは原判決の指摘するとおりであるけれども、そうであるからといって、前記認定のような被告人らの犯行の動機や犯行に至る経緯及び犯行状況等を考慮することなく直ちに強盗の犯意及び共謀関係を否定するのは早計に失するものといえる。関係各証拠によれば、被告人らは、Aに強度の暴行、脅迫を加えて金員を奪取することを考えてはいたものの、その具体的方法や場所等については事前に明確に認識してはおらず、Aから現実に被告人らが金員の交付を受けるまでの経過についてはことの成り行きでそうなったものであり、被告人らが当初から計画し、予測していたこととは認められないのであって、原判決指摘の事情が強盗の犯意及び共謀の成立を妨げる理由とはならない。更に原判決は、犯人が財物取得までの間に相当の時間的、場所的な間隔があることを予定して暴行、脅迫を加えている事案の場合、当該暴行、脅迫が被害者の反抗を抑圧するに足りるものであるか否かについては、単にその暴行、脅迫の態様、それが加えられたその場の具体的状況ばかりでなく、犯人の犯行計画のもとにおける当該暴行、脅迫のもつ意味、すなわち、財物取得に至る犯行計画のいずれかの段階で、被害者に反抗する余地がないかどうか、そのような反抗をすべて抑圧するに足りる程度の暴行、脅迫であるのかといったことも併せ考えなければならないとし、Aには、金員調達の過程で、被告人らに反抗して財物奪取を逃れる余地は少なからずあり、本件暴行、脅迫は、その態様等を十分考慮しても、同人のそのような反抗まで抑圧するに足りるものとはいえないから、結局強盗罪にいう暴行、脅迫とは認められないというのであるが、強盗罪にいう暴行、脅迫は、当該暴行、脅迫がその性質上社会通念により客観的に判断して相手方の反抗を抑圧するに足りると認められることを要し、かつそれで足りるものであり、反抗の抑圧とは被害者側が完全に反抗の能力を失うことあるいは抵抗の意思を完全に喪失することを必要としないと解されるところ、前記認定の事実、とりわけ、Aに加えられた暴行、脅迫の態様、過程、同人の畏怖状況並びに金員の調達及び交付状況等に照らすと、金員調達の過程においてもAが被告人らに反抗して財物奪取を逃れる余地はなく、本件一連の暴行、脅迫が金員調達過程も含めAの反抗を抑圧するに足りるものであったことは否定できないところである。

以上のとおりであって、これと異なる認定判断に出た原判決は事実を誤認したものといわなければならない。論旨は理由がある。

よって、量刑不当の論旨に対する判断を省略し、原判示罪となるべき事実第一と同第二とは被告人Yの関係で併合罪の関係にあり、一個の刑をもって処断すべきものであるから、刑事訴訟法三九七条一項、三八二条により原判決全部を破棄し、同法四〇〇条但書により更に判決する。

(罪となるべき事実)

原判決の認定した罪となるべき事実冒頭及び同第一のほかに当審が認定した事実は次のとおりである。

被告人両名は、A(当時二八歳)が被告人Xの元情婦と情交関係をもったことなどを聞知し、これを種に右Aに因縁をつけて同人から金員を強取しようと企て、少年である政治結社甲野会の副行動隊長Zと共謀のうえ、昭和六〇年一一月八日午前四時ころ、長崎県上県郡峰町大字志越《番地省略》先路上において、自己らが乗車する普通乗用車の後部座席に右Aを乗り込ませた後、同所から約一・七キロメートル離れた同町大字志越《番地省略》M方より南西約五二〇メートルの空地まで走行中同車内において、被告人Yにおいて、所携の刃渡り約四八センチメートルの模造刀を抜き身にして右刀身の峰部分を右Aの胸部に押し当てつつ、「お前か、兄弟分の女と寝たのは。」と申し向けて脅迫し、人里離れた右空地に到着するや、被告人Xにおいて、右Aを車外に引きずり出したうえ、その顔面を手拳で殴打し、Zにおいて、右Aの腹部を足蹴りするなどの暴行を加え、かつ、被告人Yにおいて、その場に土下座させた右Aの右肩に右模造刀を押し当てつつ、被告人らにおいて口々に、「今日はお前を殺しに来た。さあ殺すか。」、「ぶっ殺してやる。」、「お前をばらばらにしてこの谷底に捨てろうか。」などと語気鋭く申し向けて脅迫し、極度に畏怖した右Aが命乞いをするや、「金で解決するというが、いくら用意できるとか。今日中にできる金はいくらか。」などと申し向けて金員を要求し、更に引き続き同所から同人を同県下県郡厳原町《番地省略》所在の右甲野会事務所へ連行し、同日午前六時ころ、同所において、Zが同所にあった本体の長さ約八七センチメートルのもり付き水中銃を右Aの胸元に擬しながら、「これをはじいたらあんたは死ぬばい。警察にたれこんだらどうなるか分かっとんね。」などと申し向けて脅迫し、右一連の暴行、脅迫により同人の反抗を抑圧して金員の提供を約束させたうえ、同人を同事務所から同県上県郡峰町大字佐賀四六〇番地一二所在の株式会社十八銀行峰支店付近駐車場まで連行し、同人をして同支店から預金を引き出させ、同日午前九時三〇分ころ、右駐車場において、同人から現金四〇万円を強取したが、その際、前記暴行により、同人に対し加療約五日間を要する顔面打撲兼擦過傷、左手打撲等の傷害を負わせたものである。

(右事実に関する証拠の標目)《省略》

(法令の適用)

被告人Yの原判示第一の所為は暴力行為等処罰に関する法律一条(刑法二二二条一項)、罰金等臨時措置法三条一項二号に、被告人両名の当審判示所為は刑法六〇条、二四〇条前段にそれぞれ該当するが、各所定刑中被告人Yの原判示第一の罪については懲役刑を、被告人両名の当審判示の罪については有期懲役刑をそれぞれ選択し、被告人Yについて以上は同法四五条前段の併合罪であるから、同法四七条本文、一〇条により重い当審判示の罪の刑に同法四七条但書の制限内で法定の加重をし、なお犯情を考慮し、被告人両名について同法六六条、七一条、六八条三号を適用して酌量減軽をした各刑期の範囲内で被告人両名をそれぞれ懲役三年六月に処し、同法二一条を適用して被告人両名に対し、原審における未決勾留日数中各二五〇日を、それぞれその刑に算入し、原審及び当審における訴訟費用は、刑事訴訟法一八一条一項本文、一八二条により被告人両名に連帯して負担させることとする。

(量刑の理由)

本件は、被告人Yが原判示第一のとおりEほか一名と共同してFを脅迫した事案及び被告人両名が、Zと共謀のうえ、判示の暴行、脅迫を加えてAから現金四〇万円を強取し、その際、右暴行により同人に傷害を負わせたという事案であるが、各犯行の動機に格別酌むべき事情は見出せず、その態様も悪質であり、とくに、当審判示の犯行は計画的で執拗かつ粗暴なもので、被害額も多額に上っていること、被告人Xは、当審判示の犯行の首謀者であり、被告人Y及びZを犯行に巻き込んだもので、その犯情は重く、また、被告人Yも、当審判示の犯行につき自ら中心となって暴行、脅迫を加えているばかりか、原判示第一の犯行にも及んでいることなどにかんがみると、被告人両名の刑責は重いといわなければならないが、他面、被告人両名の実母らにより本件強盗被害の回復はなされていること、Aに負わせた傷害の程度も比較的軽微であったこと、被告人Yは本件各犯行に酔余付和随行的に関与したにすぎないこと、被告人両名はこれまで懲役刑に処せられた前科はなく、本件を反省し、前記甲野会を脱会する決意を有していること、そのほか被告人両名の家庭の状況など被告人らに有利な事情も存するのでこれらも総合勘案のうえ主文のとおり量刑する。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 浅野芳朗 裁判官 吉武克洋 大原英雄)

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